『行〜きましょう、行きましょう』
ズルズル
真夏の暑く気だるい日
音程を外しつつも上機嫌に歌う童謡が廊下に響き渡る
それと共に共鳴するのは、上品な音楽でもコーラスでもなく
重たい物を引きずる耳障りな雑音
そんな音を鳴らす人物を見る生徒の目は、ある者は恐怖の視線を
ある者は好奇の興味を、ある者は畏怖の念を、ある者は狂人を見る目を
様々な視線を受けつつも、まるで認識していないように…実際に分かっていないのかもしれないが
ただ、ただ長い廊下を歩いて行く
『あ〜なたについて〜どっこまでも〜』
ズルズルズル
『家来に〜なって』
ズルズルズルズルズル
「行っきましょう!!なんてね!」
「………誰が入って良いなんて言った?」
わざとしか言えないほど、大げさに扉を勢いよく開けると
一発目に聞こえたのは何とも冷たい一言
一応疑問形のはずだが、どうしても拒絶にしか取れない
普通の人間ならそこで回れ右をして帰るだろう
むしろ、普通の人間はこの部屋には迂闊には近づかない何があっても絶対に
しかしそんな忠告も、常識も、当の本人には無意味なのだろう
何ていってもアホだから
もちろん此処は某ゲームのように、殺人が日常的にされているBLゲーの世界でもないし
彼らの年齢もまだ未成年、しかも中学生という幼いものだった
だが、しかし
今この部屋に充満した悪臭は確かに鉄臭い血の匂いで
それを持ってきたのは確かに入ってきた少年だった
「………何それ」
「恭弥ーぁきーて!何とこいつら授業中だってのに校舎裏でふかしてたんだぜー
そこを俺がとっ捕まえたの。エライでしょ?」
ニコニコとまるで子供のように、褒めて褒めてとはしゃいで
少年は中にへと歩みを進める
その間にも、襟を引っ張り引きずる2、3人の人間のせいで床には血の道ができた
恭弥と呼ばれた黒髪の少年は、この辺りを統一していて恐れられているあの雲雀恭弥のはず
だがそれを微塵も知らないとでも言うように、近寄っていく少年の精神は普通では考えられない
少年が普通であったらでの話だが
「ところで授業中なのに何で君が見つけたの?君は授業どうしたの」
「え〜……え、えへ?」
「気持ち悪いよ」
「酷いよ〜」
聞かれたくないことを突っ込まれたせいか、思わず視線をずらして誤魔化してみたが
通用するはずもなくて次に言われた言葉に泣き真似をした
そんな少年を冷たい目で見ていた雲雀は大きな溜息を吐いた
普通に会話をしているのさえ珍しいのだが、実は直ちにも出て行って欲しいのは変わりない
それなのに何故実力行使に出ないのかは、色々理由がある
「それで?何なのそれ」
「ん?あーこれはねぇ〜」
机に肘をつきそれで顔を支えつつ、面倒くさそうに少年が片手で持っている物に視線を投げる
今まで泣き真似をしていた癖に、すぐさまにっこりと笑顔に変えてどこか自慢げな雰囲気をだす
ジャーン!と効果音が聞こえそうなほど、その手に掲げる
「何でもできちゃう魔法のステッキ☆だよ!」
「ただの鉄パイプでしょ」
「ちが〜うよ〜、魔法のステッキ☆何だって。だってクイーン2号より役にたったし?」
「クイーン……あぁ、あの釘バット」
「これって運命の出会いってやつだよね!」
きゃっきゃっと嬉しそうに騒ぐ少年をよそに出てきた名前を思い出して納得する
暴れる目の前の少年の手にはだいたい自家製の釘バットがあったはずだ
自分と殺し合いをする時も、その手にはいつの間にかそれがあった気がする
気がするなど、曖昧な表現なのは久しくこの少年と殺りあっていないせいでもある
自身の奇行に気づくと可笑しそうにその口元を歪めて、ゆっくりと立ち上がった
「…ねぇ、」
「なぁに?」
確かに、少年が新しく手に入れた獲物は手に馴染むようだ
泣き真似をしたとき既に手から離されていたボロボロになった、元この学校の不良どもは
全身とはいかないが血塗れの状態で運ばれてきた
当然素人に本気を出していれば殺してしまうかもしれない
なので手加減したはずだろうが、引きずられてきて呻き声さえも上げないとは意識を飛ばしていたのだろう
そこまで殴ったのは、ただ単に手加減を間違えたか……新しく手にした物を試したかったのか
使えない物ならあそこまでしないだろうから、よっぽど嬉しかったに違いない使える物として
「僕と殺し合わないかい?」
「ん〜どうしようかなぁ」
「どっちにしても、君は僕が咬み殺すけれどね」
「おっと〜おお?」
風を切る音だけを響かせて、雲雀は愛用のトンファーで突っ込んだ
まさしく目に止まらない速さで攻撃したにもかかわらず手に伝った感覚は肉を打撃したものではなく
硬質な鉱物を強く打った感触と金属音
にっこりとした笑みを崩すことない顔の前には、トンファーを防いだ先ほどの鉄パイプ
近くで見れば血であろう赤い染みとヘコんだ跡が数か所
さきほど戦いが始まる前に見かねた風紀委員がこっそりどこかへ運んで行った不良を殴る際傷ついたものだろう
「大人しく地に伏せなよ」
「やだよーそしたら俺血塗れでしょ?」
や〜だよ!と拒否を現しているのにも関わらず、どこか軽いその口調に毎度のことながら雲雀は眉を顰める
この人を馬鹿にした態度が気に食わないのだ
その癖、初めて会ったときから変わらない勝敗
いつもいつも…引き分けに持ち込まれる戦いの結果
自分と同じ力量、その癖煽られるのは雲雀だけ
その膝を地につかせて、その余裕を剥ぎとってしまいたい欲求に駆られる
「久しぶりだねぇ恭弥とこ〜するのはッ」
「無駄口叩いてる暇があるなら集中しなよ」
「はーい!」
後はもう、この応接室が吹き飛ぼうが半壊しようが当人たちの気がすむまでは終わらないのだ
委員の不良たちは、ビクビクとしつつも自分に被害が当たらないように身を逃がすだけで
副委員長の草壁は、またかと諦め半分に溜息をつくだろう
所詮自分たちではどうにかすることなんて出来ないのだ、止めるなんてもっての外
その日の学校内では、凄まじい破壊音と打撃の音が響いていたらしい
ハイリスク・ノーリターン